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バスが好きだった

バスが好きだった

帰省のため、母親に急かされてやっと新幹線のチケットを購入した。帰りの新幹線はもう満席だったけれど、乗車券は往復を買ってしまったから、どうにかして帰ってこよう。ネット予約の会員IDとパスワードの入力を求められ、次のページでセキュリティ認証を求められた。文字が全然よめなくて音声ボタンを押すと、音声ファイルのダウンロードが始まり、あっというまにiTunesに取り込まれライブラリの中で再生が始まった。むだなトラックが増えてしまった。認証音声の再生が一瞬で終わると、すぐに次のトラックの再生に移り雑音が再生され始めた。そんな曲を自分のiTunesに入れた覚えがないので、不審に思いながらきいていると、何の音だか思い出した。

2013年11月06日、15時45分37秒に録音された、大学前から駅までの路線バス車内の音声。その反対の経路の、2013年11月11日、09時49分52秒に録音された音声。 大学3年の冬のゼミ課題のために録音した音声だった!2種類のピアノ線で、オブジェを作った。道と時間をかさねた一本のピアノ線をタイムラインに見立て、自動音声とバスの車掌さんが発するある助詞(「の」、だったような、、うろ覚え)の部分を、計算して線上に打点して、その部分にもう1種類別の細いピアノ線を巻きつける。そして全体はバスの経路を模して、道をあらわして高低差をつけて曲げた。 どういうテーマだったか、思い出せないけど、ルールを決めて条件をつけて計算して形作った成果物は、すごく気に入るものではなかった。ルールを決めるまでは「考えている」と言えるかもしれないけれど、自分の中で言葉で組み立て終わって、自分でOKを出して、実際に物を作るためにうごている時間は「作業」だった。それで、やってみて、つじつまが合わなくなってきたとき(ピアノ線は針金よりもずっとかたくて、想像以上のかたさで、思い通りに曲がらなかったりしてそのときは)無理やりなんとなくでまとめあげた。「予想外」がいいように作用すれば良いものの、そうはいかなくていびつになった。

だいたい、あのときは楽しかったなあとか、戻りたいなあとか、思い出すことはあまりないけど、何かをきっかけに出来事とか景色とか気持ちとか思い出すことってあるんだな〜エモ!!! 紫山経由の、遠回りのバスが好きだった。いや、将監殿経由の数時間に一本のレア路線のほうが好きだった。言葉から形をつくるたちだったけれど、今はそんなことないなあと思う。言葉をじっくりと精査するより早さに追いついていくので精一杯だ。

バス通学で、バスに乗りながら毎日往復30分ずつ、音楽を聴いていた。「つぎ、とまります」のボタンが何種類もあるのをみつけて、古い車種のバスのときは文字が可愛くてテンションが上がった。バスの座席の柄のバブル感(?)にハマって、今日は何の柄かな?新しい柄かな?とわくわくしていた。特に好きなものを、「等粒状組織」柄、「回路」柄と心の中で名前をつけていた。それらのときはテンションが上がった。座席のパターンが好きで、就活で座席のパターンを作る会社にポートフォリオを送ったりもした。それが今では、めったにバスに乗ることもなく、座席のことを考えることもなくなった。あんなに好きだったのに。

バスの座席シートに青色のデザインが多い理由