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Going To A Town

Going To A Town

DVDの返却が明日の朝に迫っていたので、日曜の夜中に「トム・アット・ザ・ファーム」を観た。グザヴィエ・ドランの作品をみるのは4作目。前情報なしに、この間みた「胸騒ぎの恋人」的なポップさを期待して、いい感じで眠れるかと思ったが、違った。

モントリオールの広告代理店で働くトム(グザヴィエ・ドラン)は、交通事故で死んだ恋人のギョームの葬儀に出席するために、ギョームの実家である農場に向かう。そこには、ギョームの母親アガット(リズ・ロワ)と、ギョームの兄フランシス(ピエール=イヴ・カルディナル)が二人で暮らしていた。

トムは到着してすぐ、ギョームが生前、母親にはゲイの恋人である自分の存在を隠していたばかりか、サラ(エヴリーヌ・ブロシュ)というガールフレンドがいると嘘をついていたことを知りショックを受ける。さらにトムはフランシスから、ギョームの単なる友人であると母親には嘘をつきつづけることを強要される。

恋人を救えなかった罪悪感から、次第にトムは自らを農場に幽閉するかのように、フランシスの暴力と不寛容に服していく……。

トム・アット・ザ・ファーム - ストーリー より)  

テーマや舞台は違えど、毎作品、共通項があると感じる。田舎町。閉塞感。(母を見捨てられず)そこから出られずにいる子供。支配的で暴力的な長男。(父親はそれほど出てこない。いつも圧倒的な存在感の母親が出てくる。)運転席と助手席の会話。嘘。本心を隠して取り繕った会話。

うす暗い曇天と夜のシーンが多く、一層塞がれるような感覚が強まった。

飴と鞭が上手い暴力的な男に取り込まれかけ、傷を負わされボロボロになりながらうっとりとした表情で「僕がいないとあの人は駄目なんだ、僕が必要なんだ」と言い唇の端をぎゅっとあげて微笑むトムが怖い。冒頭の映像、手書きの言葉を思い出す。 逃げるトムを追いかけ、フランシスが謝罪の言葉を叫ぶ。「悪かった、行かないでくれ」と懇願する。

なによりも、エンドロールで流れるルーファス・ウェインライトの「Go To A Town」がとても良い。クライマックス。 まわりが畑しかない道を進み、どんどん暗くなって夜になり、車窓はビルがひしめく都市の景色に変わっていく。

「アメリカはうんざりだ」という歌詞の字幕、抑圧された場所からまた別の抑圧された場所へ。

考察ブログをいろいろ読んで、人それぞれいろんな捉え方があるなーと思ったけれど、私は単純に、主人公が「街へ戻ってきて安堵している」と感じた。自分がかつて暮らしていた、いるべき場所へ戻ってきた。自分を取り戻して前へ進むような感じがしてよかった。

眠って起きてから、Going To A Townの寂寥感がじわじわと思い出される。

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大学進学で、生まれ育った地方都市を離れてもっともっと栄えた地方都市へと引っ越した。 毎年お盆は高速バスで帰省していた。学校が休みに入るのはお盆直前で、下りはいつも渋滞していて、アリが歩くような速度で進みながら同郷の人たちしかいない(であろう)車内には、不思議と仲間意識が生まれて少し距離が縮まる。ワンセグで高校野球を観たり、サービスエリアで買った焼き鳥をくれるようなありがた迷惑なおっちゃんのやさしさを隣の席の知らないお姉さんと分け合ったり、バンドのグッズのキーホルダーからおしゃべりが広がったりしてわいわいと車内の時間を過ごす。ーーーそんな帰省は一度だけだったが、こんなこともあるんだなぁと、長時間の乗車でかなり疲れたけれどあたたかい気持ちになった。高速を降り、市内に入ると見慣れた寂れた景色が広がる。外を歩く人が少ない。車社会だから。地元の夏は涼しい。やませが吹いて、空は雲に覆われ青空が見える日は多くない。ふだん暮らしている街と比べて久々にみると、彩度が低い街並みだなあと、帰ってくるたびに感じる。地元が嫌いなわけではない。

お盆が終わり、家族に見送られ、時間に余裕のある大学生の身分の私はUターンラッシュの時期を避け、地元よりも少し都会の家へと戻る。

いつも、15時出発のバスに乗っていた。 車窓から見える高速道路脇の景色は、広々とひらけた畑と、点々と建っている民家、たまに民家が密集した集落、大きなイオンモールの看板、そしてまたひたすら畑、集落、畑…を繰り返す。車内は下りと同じく満席なのに、静かだ。だんだんと日が落ちてきてうす暗くなり、畑ばかりの外の景色はやがて真っ暗に、時々遠くに等間隔に立っている街灯の光しか見えなくなる。 すこし眠って起きると、もう料金所をすぎていて、高速を降りてすぐに長いトンネルに入る。そのトンネルを抜けると、突然、一気に景色が変わる。光が増える。信号待ちで、アーケードの切れ目の広い横断歩道を渡る大勢の人が見えたとき、私は「戻ってきた」と思う。サーティーワン。フォーラス。ディズニーストア。広瀬通。地下鉄の駅。

「帰ってきた」とも「安心する」とも思わない、「暮らしている街に戻ってきた」実感が湧く。また明日から、バイトやサークルや友達や、日常が元に戻って生活が回り始めることを思い出す。

ラストシーンの景色を見て、4回だけ繰り返したそれと重ねた。「私は私の人生を生きる」の歌詞字幕、田舎から都市へと戻る道中はそういう意志を徐々にはっきりさせるような時間だったかもしれない。

サマースナイパーは夏の終わり。 私にとってのGoing To A Townのような。

くるり 6thシングル「ワンダーフォーゲル」に収録