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祖母の駄菓子屋

祖母の家は、駄菓子屋だった。
小学校低学年のときは、鍵っ子にはならず、自宅よりもすこしだけ遠い、隣の学区の祖母の家に帰っていた。表が駄菓子屋で、裏が住宅。別々の建物が並んでいた。
商店の裏の居間には、スーパーで売り物にはならないような、規格外の小さいじゃがいもがたくさん入っている段ボール箱が常に置いてあった。
水で洗って、蒸かしてから、皮を剥く。熱いから気をつけて、と注意されながら、小さくて剥きづらいじゃがいもの皮を剥く。ボウルに放っていき、穴穴の調理器具で、じゃがいもとにんじんを潰す。 祖母がいつも最初に手本になる大きさで、マッシュされたじゃがいもを丸める。粘土遊びと同じ要領で、丸めたじゃがいもをバットの上に並べていく。
小麦粉をつける。溶き卵に通す。パン粉をつける。
それから、年季の入った台所の、年季の入った中華鍋で、(年季の入った)油を使って揚げる。
時折子供目にみても真っ黒だろうと思う色のコロッケが並ぶときもあったけれど、電話で十何パックかを注文されることもあったから、近所に支持者がいた、のだろう…。
祖母の家以外で、たこ焼きくらいの大きさの、まんまるのコロッケは見たことがないなあ、と今頃気づいた。

しょっぱいからあげ、まんまるのコロッケ、揚げて砂糖をまぶした食パンの耳のことを思い出した。 それらは、学校終わりのおやつだった。食べたい。

小学生の頃は透明なタッパーにからあげやコロッケを詰めて、輪ゴムをかけて、レジの前に並べるお手伝いをしていた。

あのとき見た景色の中で覚えているものがたくさんある。

トランプ
トランプの勝ち負けの表示に使うための角砂糖
象印の電気ポットのロックの赤
きれいではないティーカップ
豆炭こたつ
吊るすタイプのハエとり
ねずみとり
レゴブロックの赤いバケツ
石油ストーブ
その天板の上で炙られるスルメ
ずっと開きっぱなしのレジ
パン粉袋のストック
保留音がグリーンスリーブスの電話

格闘技のアーケードゲームをする男子高校生
その後ろでそれを眺めている男子高校生達
それを奥から眺めている小学生の私
学生から受け取った10円玉
窓際に置いてある、拾ってきたジャンプとサンデー
ちょっとエッチなグラフィックも映る、平面のアーケードゲームの装置(麻雀だったかな?)
モーニング娘。のブロマイドくじ
ガブリチュウ
フィリックスのガム
たまに新作の箱が混じっている10円ガムコーナー
ポテトフライ
たくさんのうまい棒
ボーズめくりという花の形のチョコ
どんどん焼き
きなこのくじ
割り箸で練るねりあめ(ピンクのがお気に入り)
水に溶かしてジュースにする粉
電源の入っていないコカコーラの冷蔵庫
左側は鶏肉しか入っていないアイスの冷凍庫
icebox
安いのに美味しいダブルソーダ
バニラの爽
夜になると店の中にしまう、ガチャガチャの機械8個分
ガチャガチャのハズレの、字を消せないごみみたいな消しゴム
一度も当たったことがない盗聴器(「君もスパイになれる!」の謳い文句にわくわくした)
秋になると設置する、肉まん・あんまん・ピザまんを温めるための大きな機械
扉に貼ってある、NEOGEOの、顔みたいにみえるステッカー
「からあげ・コロッケ10ヶ買ったら1ヶサービス!!」の手書きチラシ
緑色の屋根

陸奥湊の商店街にある菓子問屋へ買い出しについて行ったことも覚えている。
近所にミニストップができてからは、肉まんを温めるための機械を出さなくなった。売れなくなったんだと思う。

店の目の前が中学校で、吹奏楽部の反復練習の音を毎日聞いていた。
外周を走る運動部員が何人も通り過ぎていった。

高校生になって商店のほうに久し振りに入ったとき、ものすごく天井が低く感じたし、本当に古い建物だなあと感じてすこしさびしかった。

大学2年の時にインターンで行った会社に、祖母の駄菓子屋のすぐ近くの工業高校出身の方がいて、店と祖母のことを覚えていてくれて、話が盛り上がったことがあった。地元を離れてつながることがあるんだ、となんだかとってもうれしい不思議な気持ちになった。

※2015-10-07のはてなダイアリーに記載していた文章を加筆修正