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「哀れなるものたち」を観た

レイトショーで「哀れなるものたち」を観た。
水曜だったからか席はほぼ埋まっていて、だいたい一人客だった。自分も。
数日前の0時、予約開放と同時にとっておいたのでいい席で見られた。予約完了後見たらもう横の列がほぼ埋まってたのでみんな狙ってたんだなぁと思った。観てすぐ思ったこと、時間が少し経って残ったこと、考えたいことをざっと残す。


経験して知る、学ぶことで、自分を知ることができる。
自分のことを知るためにいろいろな経験をするのかもしれない。

知ることでくだらないと思うことも増えてくる。
何も知らない初心な女にわからないことを教えてあげたい、経験させてあげたいという上から目線。与えたい、染めてやりたい、という振る舞い。身につまされる部分がある。こういうやついる。

独占欲というか男性性みたいなのはやっぱり一生わからないんだろうなと思う。なぜそう思うか理解はするんだけど、そんなにこだわること?と思う。映画の中でもそうだったように。本能としての違いなのか。
欲しがってたくせに手に入らなければ悪者にする。全部他人のせいにする。嫉妬で自分自身を破滅させる。
そんなに怒り憎しみ殺したいほどの嫉妬心が生まれるものか、と思う。自分を踏み躙られる感覚なのか?自尊心?支配欲?

純粋であるがゆえに世界を知って苦しくて深く絶望するけれどどうすることもできない。断絶がある。
思い込んだ善意は、自分が知らなければ善意のまま。
貧しい者たちへの哀れみ。

いろんな旅をして自立するまで成長して帰ってきて結果、もともと(親のような存在に)決められていた結婚に帰結するのか、とも思った。結局そこに行き着くのかと。
ふたり散歩して、あらためて結婚して、と言うシーンの背景がぐるぐるボケだった。オールドレンズのような。木々の緑で余計際立ったけどこのシーンだけではなかったのかもしれない。
結婚式でのちょっと待った!!が王道タイミングなのちょっと笑うところだった。

感情には理由がある。なぜ惹かれあったのか?単純には考えられなくなる。こういうことがあってこう感じた、そういう経験から自分のことを紐解く。自分ではなかった自分の気の毒な状況を理解する。

自分の足で歩くこと。歩き方が拙い感じから多分どんどん自然になっていったと思う。心と連動していると思った。友人と一緒に社会主義の集まりに行くところからそうだった?スタスタ歩いてたのは元の家に帰ってくる時?スタスタ歩いてなかった?うろ覚え。
服装にもアンバランスさがあった。次第に黒く落ち着いていく。心と体が統合されたよう。

エクス・マキナと似たところを感じた。あれは出て行って終わりだけど。まさかまた閉じ込められるとは。
エクス・マキナは協力者も切り捨てて一人で外へ行ったが、哀れなるものたちはそうではなかった。信用。愛。AIと人間の違いか?

エンドロールのそう見えるものたち。いちばん最後は脳。

敬愛(toゴッド, マーサ, ハリー)、親愛(toマックス)、慈愛(とは少し違うのか?to貧民)、友愛(toトワネット)が見えた。
慈愛以外の愛の違いは、自分の中に明確にはないかもしれない。

嫉妬で怒り狂う、感情をかき乱される、その発露を見ることって日本の映画ではあまりない気がする。

私たちは嫉妬の存在を容易には認めようとしない。誰かの成功に妬んでいたとしても、「あいつは大したことない」といったように、その価値を否定することで自分を慰めることも多い。そのためこの感情は、たとえば怒りや悲しみといった感情に比べると、ストレートには表に現れにくい。それはたいていの場合、自らを偽装する。
隣人、同僚、見知らぬ他人を羨ましく感じてしまうのは、なぜ!?|山本圭|光文社新書

よく見るのはこれ。こういう振る舞いもあったけれど、ダンカンはもっと子どものようだった。
わかる感情ではある。

「良識ある社会」での振る舞いは身につけていて表面的な付き合いをこなすことはできても、目の前の相手の考えていることを考える姿勢を持ち、対話をすることができない男。
所詮女を自分の飾りとしてしか見ていない。「俺の人生を彩るもの(ダンカン)」だったり「目的を果たすために必要なもの(アルフィー)」としか考えていなくて、無自覚的に相手の人生は蔑ろにしている。一緒にいるだけで相手は幸せだと考える傲慢さ。(いや、考えてもいないのかもしれない)

否定しないで肯定してくれる、型にはめたり縛り付けたりしないで自由でいさせてくれる、対話ができる、そういう人は貴重だ。愛を持っていたい。

嫉妬は確かに困った感情だが、ある意味で最も人間らしい感情に思えたし、ときにそのおろかさや不合理が滑稽に、愛すべきものに感じてしまうことすらある。(p23)
嫉妬論 民主社会に渦巻く情念を解剖する (光文社新書 1297)

嫉妬で破滅するダンカンのおろかさ、滑稽さがまさに。哀れみは可愛いにつながる。
「嫉妬」という強くてネガティブな感情が気になって今日発売のこの本をたまたま見つけて読み始めた。タイムリー。少しでも分かりたいと思う。